小浜正子「中国の人口政策」

第12報告 「中国の人口政策」

小浜 正子(日本大学)

中国の「一人っ子政策」は、各国の人口政策の中でも、その規模の大きさと強制性の強さ、そして影響の大きさにおいて、とりわけ大きな注目を集めてきた。本報告は、その「政策」の実態が現場によってどんな幅があり、どのように異なっているのかを、農村部を中心に、村の行政幹部・医療人員の工作ぶりと生殖の当事者である女性たちの対応とに注目しながら考察して、中国の人口政策の性格を考察しようとする。
人口学の専門家には知られていることだが、中国は1950年代後半から都市部で計画出産を開始していた。日本の家族計画の開始からそんなに経たない時期のことである。1960年代には農村部でも計画出産がはじまり、70年代には全国で推進されて合計特殊出生率が5人台から2人台に急減するという急速な出生抑制を実現した。しかしベビーブーマーが出産適齢期に入ると大きな人口増が見込まれるとして、70年代末から「一組の夫婦に子供一人」を提唱して、賞罰をともなう強力な人口政策を実施したが、これがいわゆる「一人っ子政策」であった。2016年から中国政府はすべての夫婦に第二子の出産を認め、「二人っ子政策」に移行しているが、出産が政府の統制下にあることは変わらない。したがって中国の人口政策を検討する際は、1979~2015年の「一人っ子政策」の時期だけに注目するのではなく、その前後の計画出産を視野に入れて考える必要がある。
「一人っ子政策」は1980年代から、「基本国策」として中国の中央政府によって強力に推進されたのだが、その根拠となる全国法である「中華人民共和国人口与計画生育法」が制定されたのは、ようやく21世紀に入ってからであった。それ以前から地域ごとに各地の状況を考慮した条例が制定されており、またその地の党・政府による指示に基づいて、現場の幹部が最前線に立って人口政策が実施されていた。中国の人口政策とは、そのような「因地制宜」(地域の状況に合わせて実施する)の集積なのであり、現場における「政策」の具体的な内容は、地域や組織の状況によって相当に異なったものであった
本報告では、報告者の行った中国の複数の地域での調査に基づいて、そうした違いがどこから起こるのかを考察する。女性たちにとっては、自分の暮らす村の幹部の言うことがすなわち「政策」である。そうした現場の幹部や女性たちのエイジェンシーに注意しながら、中国の人口政策には、どのような特徴や問題点があるのかを考えたい。