第4報告「家計からみる現代日本の世代間関係」
村上あかね(桃山学院大学)
本報告の目的は、家計の視点、とくに親子間の経済的な援助関係から現代日本の世代間関係を明らかにすることである。出生コーホートによる雇用機会と世帯構造、結婚・出産、資産形成、親からの援助の違いに焦点をあてることには、未婚化・晩婚化と人口減少、中高年フリーターなど現代の社会問題にたいする学術的・社会的な意義も少なくないと考える。
これまでの日本は人口増加と高度経済成長によって多くの人々が「一億総中流」と呼ばれる豊かな生活を享受してきた。しかしながら、経済の停滞、人口構造の変化によって日本は「格差社会」になったとの認識が1990年代以降拡がった(橘木 1998; 大竹 2005; 白波瀬 2005)。
人口減少による労働力不足のために新卒者を中心として若者の雇用は改善したようにみえるが、学卒時に就職氷河期であった世代(ロストジェネレーション)の困難は依然として続いており、第3次ベビーブームが起こらなかったことがさらなる人口減少を招いている。若者の多くは結婚を希望しているにもかかわらず、結婚にいたる経済的な壁があり(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)、「ライフスタイルの多様化」だけが人口減少の原因ではない。
日本型企業社会における採用システムと非正規雇用の増加が学校から職業への移行、結婚・出産など家族形成の遅れ、資産形成の遅れなどその後のさまざまなライフイベントに波及的に影響を及ぼしていることは公的統計からも確認できる。まさに累積的有利・不利(マタイ効果)が生じており(DiPrete & Eirich 2005)、それが人々の閉塞感を生んでいるのではないだろうか。
企業が社会保障の重要な担い手であり、正規雇用社員と非正規雇用社員の格差が大きい日本では、非正規雇用社員は企業福祉の恩恵を受けにくい。総じて不充分な社会保障を補う役割を果たしてきたのが家族・親族であり、親からの相続・贈与は住宅取得を促す効果がある(村上 2008)。そして、親から相続・贈与を受けたことがあるケースほど親の老後の世話をしようとする意向も強く、互酬性のメカニズムが働いている。親から相続・贈与を受けられる可能性も社会経済的に恵まれた層ほど高い(村上 2006)。
本報告では、公的統計から日本社会の変化を確認しつつ、「消費生活に関するパネル調査」のデータを用いて、親から子どもへの日常的な経済的援助と親への援助意向との関係を示す。予備的な分析では、無配偶者は有配偶者に比べて親から経済的な援助、とくに「生活費」の援助を受ける傾向が高いことが確認された。さらに、どのような無配偶者が親から援助を受けているのかを提示し、議論の材料としたい。
ポスト青年期の困難はヨーロッパでもみられるが、人口問題が深刻な日本においては世代間・世代内の累積的有利・不利がいっそう深刻な課題になると予想できる。