第3報告「世代間関係―民法学の観点から―」
冷水登紀代(甲南大学)
本報告では、民法が規律する「世代間関係」、具体的には世代間の助け合いに関する扶養制度と世代間の財産承継に関する相続制度とを確認することである。扶養制度と相続制度は、戦後1946年に制定された現行憲法をうけ――家制度の廃止に伴い――大改正された制度である。そして、戦後から現在にいたる70年余の経過のなかで、立法の前提とされてきた社会の状況や家族の形態が変化しつづけている。しかし、扶養制度は、戦後に規定された形が今日でもそのまま維持されており、世代間の助け合いに関する制度は、私法分野ではなくむしろ社会保障法分野で新たに発展してきたとえる。貧困政策の一環として生活保護制度が、高齢社会へとむかうなかでは年金保険・介護保険制度などがあげられる。相続制度は、何度となく見直しが迫られた制度であり、本報告との関係では、1980年に寄与分が、2018年には特別寄与制度が導入された。
本報告では、まず、扶養制度が、戦後家制度の廃止と夫婦・親子を中核にすえた制度へと展開され、同時に親族扶養、特に老親扶養がどのような位置づけとなったのかを、民法通説をもとに検討する。そのなかで、現行扶養制度において扶養義務者に要請される扶養義務を明らかにし、民法における扶養と介護の関係性を検討する。また同時に、経済成長期の核家族モデルをもとに展開した家族法において、老親の生活保障の問題(特に介護の問題を中心に)はどのように捉えられてきたか、さらには高齢化社会・高齢社会へと向かうなかで、法はこの問題をどのように解消する必要があると考えてきたのか、その担い手は誰か、最終的な負担者は誰かということを社会保障法分野での議論も踏まえて検討する。
また、家族法における扶養と介護の関係をみた場合、今日家族において事実上引き受けられている財産のある要介護者への支援は、扶養義務の一方的履行というよりは、むしろ相続の場面で一定の評価を得て財産移転を受ける期待に繋がっている。寄与分や特別寄与分は、このような場面で機能することが期待され整備された制度である。本報告では、従前、寄与分の問題として処理された裁判例を中心に、実際に寄与分がどのように機能してきたのか、どの程度機能してきたのかということを検討し、新たに導入された特別寄与制度の意義を探ることを試みる。