2016年シンポジウム基調報告要旨

日本の結婚のゆくえ

 山田昌弘(中央大学)

1.結婚の意味の時代変化

*  前近代社会の結婚と近代社会の結婚の意味は大きく異なる
前近代社会 生殖相手を親族間で交換するイベント
(Levi=Strauss『親族の基本構造』)

目的 親族集団の再生産(個人の生存)
近代社会 新しい家族を形成するイベント(個人の出来事)
目的 個人の欲求充足、自己実現
*  結婚  人間の性的関係のペアリング(これ自体は通文化的)
「排他的性関係」「嫡出原理(子どもの社会的位置づけの正当化)」 普遍的
二つの付加的機能(ペアリングに伴う帰結)
①  共同生活の相手(経済的)、身分、職業階層、生活水準、名誉などを同一にする
②  恋愛・親密の相手(心理的)  セクシュアリティ、親密性、ロマンス感情の充足
①、②のどの要素を「夫婦」間で重視するかは時代、文化によって異なる
前近代 ①は大家族、親族システムに包摂
②は結婚外でも充足可能、生存には不要

2.近代的結婚

* 近代社会 個人化(社会生活が個人の選択に委ねられる)
産業革命(雇用労働者化) 自分で職をみつけ生活を自立する必要
宗教革命・共同体の衰退  自分でアイデンティティを確立する必要
家族革命       自分で親密な相手を見つける必要
*  夫婦家族が生活共同と親密性の単位となる。
夫婦 経済的に独立した単位(雇用労働者化による)
アイデンティティの源泉(存在的不安の解消)
結婚  夫婦を形成する=共同生活の相手と親密な相手を得ること
* 家族(夫婦)以外の共同生活、恋愛・親密性を制限
結婚しなければ、生活困難が生じる
結婚できなければ、親密な相手を得ることが難しい
* 近代的結婚の特徴
①  恋愛結婚  好きな人と一緒に共同生活を送る
②  性別役割分業  男性  家計を支える  女性 家事・育児・感情労働
* 第一の近代(日本では高度成長期)
戦後型家族(性別役割分業型家族)の形成と普及
「好きな人と、夫は主に仕事で、妻は主に家事で、豊かな生活を目指す」
高度成長期の若者は 97-8%が結婚
*  戦後ほとんどの人が結婚できたわけ
① 経済的要因        大多数の若年男性の収入が安定して上昇
(雇用、自営業)
② 出会い、恋愛要因  職場での未婚男女の継続的接触

3.近代結婚の危機と欧米社会の対応

* 近代社会の構造転換 ニューエコノミーと性革命
経済と家族の規制緩和により、性別役割分業型家族が
* 経済構造の転換 ニューエコノミー(1980-欧米 1995-日本、)
経済的不安定の進行 女性の経済的自立と男性の経済不安定化
結婚による経済的単位の形成の格差拡大
* 性革命、家族の規制緩和
結婚を前提としなくても、親密性セクシュアリティを楽しむことが可能に
離婚の自由化(嫌いな人と結婚している必要がない)  経済基盤の不安定化

* 経済と親密性の矛盾の顕在化
好きになる相手と豊かな経済生活が送れるとは限らない
妻子を養って豊かな生活を送れる若年男性の減少
好きになった相手と経済的に安定して生活できるとは限らない
* 欧米の対応 親密性(セクシュアリティ)を優先
純粋な愛情関係の追求 同棲の増大
男女とも経済的自立を求められる
政府の経済支援による子育て支援の拡大

4.日本の結婚危機

* 日本の対応  経済生活を優先
近代的結婚(恋愛結婚、性別役割分業家族)に固執
夫が主に働いて家計を支える  未だ強固(現実、意識上)
恋愛は結婚に結びつく    未だ強固
パラサイト・シングル  親と同居して待つことができる
* 結婚できる人とできない人への分裂
収入が安定した男性      結婚は今まで通り
収入が安定しない男性  結婚難へ
女性には、明確な結婚しやすさの差異はあまりない(年齢)
* 結婚難、恋愛が低調に
結婚する人の減少        (未婚率の増大)
恋人がいる人の減少、恋人意欲の低下、性欲の低下
* 恋愛・愛情のバーチャル化
親密・恋愛感情(親密、ロマンス、セクシュアリティ)の行き場
分散、バーチャル、市場からの調達
① 親密性    同居の親、友人、ペット
② ロマンス感情      アイドル、追っかけ、腐女子、メイドカフェ、キャバクラ-
③  セクシュアリティ  性風俗、ポルノ
* 日本の結婚の将来 家族格差の時代へ
従来通りの家族を形成する人々
形成できない人々(未婚者、離別者)など