2016年シンポジウム第2部報告要旨

出会いと結婚に関する計量社会学的検討

――アジア 8 地域を対象として――

伊達平和(滋賀大学データサイエンス教育研究センター)

 1.問題の所在

現在、アジア諸地域は急激な社会変動を背景として、少子高齢化や女性の役割の変容に代表される親密圏の変容に直面している。「出会いと結婚」についても出会い方の変化や晩婚化が指摘されているように、家族形成に関わる変化は関心が高まっている。しかし、計量データに基づくアジア家族の比較分析はまだ蓄積が始まったばかりであり、アジア内部の差は明らかになっていないことも多い。以上の関心のもと本発表では東アジアの日本・韓国・中国・台湾、そして東南アジアのタイ・ベトナム・マレーシア、さらに南アジアのインドの計 8 地域を対象として①配偶者との「出会い方」と②結婚に対する「親の影響」の2つの側面からアジア内部の特徴を明らかにする。さらに、親の影響の強さが何によって規定されているか、その要因についても明らかにすることによって、それぞれの地域の結婚を取り巻く状況についても明らかにする。

2.使用するデータと分析法

使用するデータは East Asian Social Survey 2006(EASS 2006)と Comparative Asian Family Survey(CAFS)である。なお、EASS 2006 は地域全体のサンプルであるが、CAFS は首都圏の調査でありベトナムはハノイ、タイはバンコク、マレーシアはクアラルンプール、インドはデリー・チェンナイ・ロータックで調査が行われている。使用する変数は「あなたは配偶者の方とどのようなかたちで出会いましたか」(1.見合い2.紹介3.自分で)、「どこで配偶者の方 と出会いましたか」(1.近所2.学校3.職場4.家族関連イベント5.その他)、「あなたが配偶者の方との結婚を決めた時、あなたの親の意見はどの程度影響しましたか」(0.全く影響しなかった1.あまり影響しなかった2.ある程度影響した3.かなり影響した)の3つである。本発表では、出会い方に関する2つの質問は、分布と年齢段階別の基礎的な分布を確認する。次に親の影響については、基礎的な分布を確認した後「影響した」「影響しなかった」の2つに統合し、ロジスティック回帰分析から要因の分析を行う。なお独立変数には、性、年齢段階、学歴、性別と学歴の交互作用項を投入し、主に性別と学歴の交互作用に着目して、地域別の親の結婚に対する影響を比較する。

3.分析結果

分析結果によると、概して東アジアの4 地域では女性の方が男性に比べて有意に高いがその他の地域では男女差が明確にみられない。タイでは高学歴女性が親からの影響を強く受ける。ベトナムでは全体的に影響を受けておらず、インドは強く影響を受けている。マレーシアはその中間である。また中国では高学歴者は低学歴者に比べて影響を受けにくいが、台湾では高学歴者の方が影響を受けやすいことが明らかとなった。
以上の結果に基づき、本報告では主に性と学歴が結婚に及ぼす影響の地域差について考察を行う。

 

 

フランスにおけるカップル形成と法制度選択

 大島梨沙(新潟大学実務法学研究科)

 本報告は、カップルのために用意されたフランスの法制度とその利用実態を紹介することを通して、法制度がカップル形成に与える影響と、カップルの実態が法制度に与える影響を考察することを目的とする。

1. フランスにおけるカップル関係制度の多様性

現在のフランスには、カップル(性別は問わない)が生活していく上で採りうる法制度上の選択肢が3つある。婚姻と PACS と内縁(自由結合)の3つである。さらに、どの形態を選んだ場合でも、カップルの財産のあり方を選択することが可能になっている。

↗ 婚姻→後得財産共通制,包括共通制,後得財産分配制,別産制・・・

カップル  →PACS     →別産制、共有制

↘ 内縁(自由結合)→契約の活用(共有の約定、組合契約など)

(1)   3つの地位からの選択

婚姻は、家族を創始する(基盤となる)ものとして位置づけられている。フウフが子どもを(産み)育てることを前提としており(父性推定、共同養子縁組)、3つの中で最も多くの法的義務・ 効果が発生する(貞操義務、相続権、遺族年金)。成立と離別に最も煩雑な手続きが課されている(役所での挙式、裁判官の介入)。PACS は共同生活を送るためのカップルの契約として位置づけられており、共同生活に必要 な限度での法的義務・効果が発生する(協力扶助義務、社会保険受給権)。成立と離別が容易なものになっている(契約の申述で成立、通知の送達で離別)。内縁(自由結合)は、婚姻や PACS という法制度を利用せずに共同生活を送っているカップル という位置づけである。したがって、法的義務は発生しないが、共同生活を送っているという事実から一定の効果(主に社会保障的な目的を有する効果)の発生が認められている。成立・離別 は自由である。

他方で、3つの選択肢のどれを選んだ場合でも、カップル間の子どもの地位、子どもに関する社会保障、カップルに関する最低限の社会保障は共通しており、これが、選択肢が選択肢たりうる基盤となっている。

(2)   財産関係についての選択

婚姻を選んだカップルの場合、特に何の契約も結ばなければ、財産関係については後得財産共通制に服することになる。後得財産共通制とは、婚姻後に取得した財産はフウフ共通の財産、管理は競合管理(それぞれに管理権あり)となるものであり、フウフが協力して共同生活を営む場合に適合的なものとなっている。これと異なる財産制を採用したい場合は、夫婦財産契約を結ぶことになる。公証人がその契約締結の手助けをする。契約で選択しうる財産制の類型としては、次のようなものがある。

第 1 の類型は、婚姻前に取得した財産や相続で取得した財産を含め、すべての財産をフウフの共通財産とする包括共通制である。婚姻前にそれほど財産を形成していない場合、長年連れ添った高齢のフウフの場合などに利点がある。第 2 の類型は、婚姻後もそれぞれが取得した財産は各人の財産とする別産制である。ただし、この場合でも、婚姻費用分担義務、第三者に対する日常家事債務の連帯責任を免れることはできない。フウフがそれぞれ専門職についている場合、婚姻前に多くの資産を形成していた場合、高齢再婚で前婚から生まれた子に財産を残したい場合などに利点がある。第 3 の類型は、婚姻中は別産制とするが、離婚時に一定の財産を財産の少ない側に分配するものとする後得財産分配制である。

PACS の場合も、財産関係についての選択肢がある。婚姻と異なり、何も契約をしなかった場合は、当事者の財産は各人の財産となる別産制となる(2007 年以降)。ただし、共同生活費用の分担義務、第三者に対する日常家事債務の連帯責任は負う。これに対し、一定の財産を共有にすることを約することによって共有制をとることも可能となっている。

内縁(自由結合)の場合、財産関係については独身者と変わらない(各人が得た財産は各人のもの)。共同生活費用の分担義務も負わない。しかし、組合契約や共有の約定を活用することにより、一定の財産を共有にすることを約することができる。以上を総合すると、2人とも相応の収入がある場合や、相手の負債や財産管理のずさんさに巻き込まれたくない場合、嫌になれば別れられる自由を重んじるカップルの場合は、PACS  や内縁(自由結合)にメリットを感じることになる。

2.フランスにおけるカップルの実態と法制度

(1)法制度変容の歴史

1.で述べたような制度のあり方は、長い歴史をかけて形成されたものである。フランス民法典が制定された当初は、婚姻(教会ではなく国家が承認する婚姻である民事婚)が絶対的なものとされていた。夫婦財産制については民法典制定当初も地域的多様性に配慮していくつかの選択 肢が存在したが、妻に契約を締結する能力が認められないなど、夫に大きな権限を与えていた。こういった状況が変化して今日のようになるまでには、社会経済状況の変化、自由と平等を求める人々の存在があった。つまり、現実のカップルの実態・ニーズに合わせて法制度が変わってきたといえる。

(2)今日のカップルの多様性 では、今日のフランスでは、法制度に関してカップルはどのような選択をしているのか。婚姻・PACS 締結件数や、財産制についてのアンケート調査の結果などから、フランスのカップルの多様な実態を示す。

最後に、以上のフランスの状況からの示唆として、日本のカップル関係制度の硬直性が日本のカップル形成にも影響を与えている可能性について検討し、結びとしたい。