秋季大会シンポジウム要旨

ミニ・シンポジウム「沖縄の「家」の記録と継承 ~家譜・墓・仏壇から考える~」

発表1 武井基晃(筑波大学)

「先祖の歴史への関心と期待―家譜の分析と仏壇の新設―」

琉球王府時代の家譜という先祖の歴史資料に対して、今日の沖縄の子孫たちはどのような関心や期待を抱き、子孫としていかなる義務を果たしているか。本発表は、家譜を通しての先祖への関心について、最近行われた元祖の仏壇・位牌の新設や、調査者と子孫(門中)の関心の共有、対話的共有を合わせて論じる。

門中とは、共通の先祖からの父系系譜関係でつながる沖縄の親族集団であり、先祖祭祀の実施をその主目的として結集する。実際のところ、その結集理念は血縁というよりも先祖以来の歴史の共有の継続に基づく史縁的なものである。今日の門中では先祖祭祀をより確かに実施するために、そして門中の成員同士の関係を明らかにするために、元祖以来の先祖代々と今日の個々人との系譜関係を明らかにしようとする先祖の歴史の探究が最重要の事業と位置づけられている。その際、琉球王府時代の家譜が幸いにも沖縄戦での焼失を免れ残存している場合、それは子孫にとって第一級の歴史資料となる。琉球王府の系図座の認証を受けた琉球士族の家譜は、琉球士族男子の履歴や姻戚関係の集積だからである。

発表者は家譜に記録された琉球士族の履歴を視覚資料化して琉球士族の人生を分析しており、さらにその成果をフィールドワークにおいて子孫に提示する対話的共有を試み始めている。その中で、門中の団体から依頼を受けた、官生(琉球王1代につき4人だけ許された北京への国費留学生)に選出された先祖の履歴の分析と家譜の視覚資料化を事例として報告する。子孫の歴史的関心の対象となるのは、元祖以外では、琉球史の中でも重要な役割を果たした先祖である。そのもう1つの例として、宣教師ベッテルハイムに会った先祖は誰かという関心事も、家譜の記録の範囲内で提示していく。

このように家譜から代々の歴史が明らかになるとはいえ、歴史の関心そして先祖祭祀の主対象は結局、門中の初代に当たる元祖(琉球士族由来の門中にとって琉球王府に仕官した初代とされる人物)が中心である。そこで、内地に転出した本家に代わって沖縄で元祖の仏壇を新設することで、元祖をはじめとする先祖祭祀が改めて補強された最近(2015年12月)の事例を先祖に対する今日的な事業の実例として報告する。

 

発表2 山城彰子(南城市教育委員会)

「家譜資料からみる婚姻・出産・離別―女性に焦点をあてて―」

国立国語研究所が編集した『沖縄語辞典』(1963年)で、「家」を引くと「ヤー」、「家庭」を引くと「チネー」と書かれている。『沖縄大百科事典』(1983年)では、「ヤー」について、「家のことであるが、建物としての家屋をさすばかりでなく、一つの家のなかで生活をともにし、有形・無形の遺産を超世代的に継承し支えている家族を中心とした、地域社会の基礎単位をさすことば」と比嘉政夫氏が説明している。「チネー」については、「チネーはたんなる家族の集合ではなく、経済的、政治的あるいは宗教的な1単位としての意味をもつと思われる」と比嘉氏は述べている。日本史では、「イエ」や「家父長制」が重要なテーマとして研究されてきたが、近世琉球社会における「ヤー」や「チネー」と、近世日本社会における「イエ」について、どの部分が重なり合い、またどこが違うのか、ということは細密な分析と丁寧な検証が必要だろう。その一歩として、私の研究では、系図家譜史料にみえる士族社会の「家」と女性について考えたい。

「家譜資料」という資料をもとに、女性が「置かれる」状況を述べていくことが第一の目的である。家譜資料からは、女性の主体的な動きをみることはできない。しかし、家譜資料に記述される女性の断片的な情報をもとに、「家」という場面を軸にして、中心に「置かれる」「室」だけではない、周縁に「置かれる」女性を掘り起こしていくこと。この二つを念頭に置き、士の婚姻と「家」と女性について考えたい。

また、今日の沖縄県における女性の生活実態、男女共同参画社会づくりに関する県民意識などの調査をふまえ、県内に暮らす50代~80代の女性が位牌継承についてどのような考えを持っているか紹介したい。

 

発表3 鈴木悠(那覇市歴史博物館)

「近世琉球における銘書の受容と展開について―浦添市内出土の墓誌銘の分析を通じて―」

銘書(ミガチ)とは墓誌の一種であり、厨子(蔵骨器)に記された被葬者の名前や死去年・洗骨年などの情報が記されたものをさす。銘書を記すという行為は死者の「個性」を「保存」する行為ともいえ、墓に収められた遺骨が「誰」であるのかを把握する必要性が生じたために広く受け入れられたと考えられる。

近世における身分制度の成立は17世紀後半で、「士族」と「百姓」の2つの身分に分けられていた。士族は系図の編纂を許された人々で都市(首里・那覇・久米・泊)に居住し、百姓は系図の編纂を許されず地方(じかた)に居住した。銘書を記す習慣は、士族身分が百姓身分に先行して一般化する。その背景には1689年の首里王府による士族を対象とした系図編纂事業が開始されたことや位牌祭祀の浸透が挙げられるだろう。百姓身分への浸透は村落のエリートである地方役人たちによって導入されたと考えられる。また、銘書の記載形式には時代的変遷が見られ、19世紀前半には士族と同様の形式に変化する傾向にある。

本発表で対象とする浦添市は沖縄島中部に位置し、県庁所在地の那覇市に隣接しており、近世琉球期には浦添間切と呼ばれた。浦添間切は王都であった首里に隣接する前田・経塚地域とその他の純農村地域に大別することができる。前者には王都・首里の周縁部として首里に居住する人々の墓群が形成され、次第に屋取(ヤードゥイ)と呼ばれる首里からの寄留した士族の集落が形成された。後者には、各村々の構成員である百姓の墓群が形成された。そのため、士族の居住する町方から百姓の居住する地方への影響関係を観察するには恰好の地域であるといってよい。また、近年では那覇市と同様に大規模開発に伴う近世墓群の発掘調査が行われ、膨大な数の厨子が収集・報告されている。

本発表では浦添市内より出土した近世期の厨子に記された銘書を分析することで、その受容と展開について検討し、あわせてその社会的背景についても検討したい。

 

発表4 越智郁乃(立教大学)

「お墓の引っ越し:現代沖縄における墓制と祖先祭祀の継承」

沖縄本島中南部都市域は、沖縄戦後、本島離島各地から人口流入によって形成されてきた。そこで暮らす人々は、なんらかの形で出身地とのつながりを持ちながら祖先祭祀を継続している。本発表では、そこで起こる「墓の引っ越し(=新造墓と改葬)」を取り上げる。

沖縄社会は本土日本と比べて祖先信仰が発達した地域であり、それゆえ祖先祭祀及び葬墓制を通じた祖先観や、祭祀を支える親族集団が注目されてきた。そこで論じられてきたのは、「死者がいかに儀礼を経て祖先へと変化して子孫を守る存在になるか」という点であった。祖先祭祀に関する研究は、その多くが各地域・階層毎の位牌祭祀を対象に、また墓制研究は、沖縄内各地域の墓制のバリエーションに関する研究蓄積に加え、17世紀に中国からもたらされた墓地風水の展開に関する研究が行われてきた。しかしながら、本島中南部は沖縄戦後の復興と米軍基地建設及び基地経済の影響で流入してきた移住者により都市化が進み、1972年の本土復帰を経て再び日本に組み込まれた沖縄県は、本土経済と開発の波が到来した。それが祖先祭祀に及ぼす影響については、これまでに十分に検討されてこなかった。そこで発表者は、移住者の家単位での祖先祭祀の中で、特に墓に注目して研究を行ってきた。

まず、祖先祭祀を円滑に行うためには位牌が欠かせない。位牌を安置する仏壇には日常的にお茶湯、線香を供える。旧盆には多くの供え物であふれ、親族が集まる場となる。そのため、位牌は移住とともに移動させる。移住当初は移動させなかったとしても、継承者の結婚や親の死とともに次第に現住地に移動させる例が多くみられる。

他方、墓は遺骨を安置する「あの世の家」であり、清明祭などの墓前祭が行われる重要な場だが、構造物であるがゆえに位牌と比較した場合、その移動に困難が伴う。移住先に墓地を求め墳墓を造り、出身地の墓から遺骨を移すことは金銭的にも容易ではない。さらに、出身地とのつながりを示す墓を移動することは、継承者自身が「故郷」からの「逸脱」と捉える場合もある。このように様々な葛藤を抱えながら造りあげられた新しい墓には、墓の形や墓碑への刻字を通じて「故郷」や「家」の「記憶」が表現される。本発表では、このような変化を単なる「伝統の喪失」「本土化」と捉えず、現代における祖先祭祀の継続にむけた営みとして考察する。

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