初生女子の「家」―「姉家督」から再考する今日の世代間関係―
金沢佳子(千葉大学大学院)
「姉家督」とは「男女を問わぬ初生子相続」のことで、女子の次に男子が生まれても「女子」に相続させる点に焦点が当てられるが、この慣行が重視する「初生子」のもつ意味合いは見逃されがちである。
本報告では、兄(長男)のいる妹(長女)も対象にいれ、「初生女子」の相続を検討する。きょうだいが女子だけの場合は「姉家督」と同様だが、兄妹の場合、妹が継ぐとなると、長男である兄の立場はどうなるのか。妹の夫や親族との関係はどうなるのか。
三世代同居では、祖父母は嫡男孫を継承者として、「家」の歴史やしきたりを教えてきたが、今日では核家族が大勢となり、遠隔地別居となれば、三世代が集うのは盆と正月だけとなる。晩婚・少子が加速した。高齢になった祖父母は、嫡男孫が第二子であると、その成長を待てずに、初生女子を総領のように扱ってしまい、嫡男孫は継承者としての意識が乏しくなる。となれば、男女を問わず初生子を継承者にしたほうが「家」存続の確実性は高い。そろそろ「弟」長男を嫡男として重視する傾向を見直してもいいのではなかろうか。
出生動向は1980年代後半から女児選好となり、一人娘が増えている。「婿」が珍しい存在でなくなれば、家名や仏壇・墓の継承は姓を変えない娘が容易に引き継いでゆく。庶民の間で行われていた「姉家督」は、武家社会を倣った明治民法によって消滅したが、戦乱の世でもない今日、嫡男が「家」を継承する必然があるのだろうか。ここで言う「家」は「家制度体」のことではなく、鈴木榮太郎のいう「家の精神(・・)」に近い観念をさす。その体現を節句行事、葬送の慣習といった生活面から、先祖のエピソード伝承といった情緒面まで包摂したとき、「家」と「家族」の境界も検討材料となろう。継承者を初生女子とした場合、どんな問題点が派生するのか。招婿婚から娶嫁婚に至る歴史を振り返りつつ、少子時代の円滑な世代間関係を考えてみたい。