第5報告「高齢者介護意識にみる若年・壮年の世代間関係と性別役割
―希望と実現可能性のギャップ―」
中西 泰子(相模女子大学)
1.問題設定・目的
エスピン・アンデルセンの「脱家族化」「家族主義」や「支援された家族主義」(落合2017)など、主に政策的観点から現代日本における家族内ケアの位置づけについて議論が重ねられている。
では現在の日本における人々の態度からはどのような傾向が見いだせるのだろうか。家と近代家族、さらに家族の個人化、個別化(清水2001等)といった重層構造を背景として、家族の誰がどのような形で、どの程度介護に関わるべきかを一律に規定する新たな規範は登場していない。このような状況において、人々は家族内ケアに対してどのようなニーズや葛藤を示すのだろうか。
本報告では、老親介護に対する人々の態度をつぶさにみていくことで、そのような問いについて考えていきたい。具体的には、若年・壮年世代の老親介護に対する態度について、介護意識における被介護者と介護者の続柄による回答傾向の違いや、希望と実現可能性の違い、家族の介護態勢(藤崎1998)に対する態度と自身の関与についての態度の違いをふまえた複数の質問項目の回答傾向から類型化を行い、それぞれの類型の特徴を示す。
2.方法
35~50歳の有配偶男女を対象としたサーベイデータを用いた統計的分析を行う。当該調査は、インターネット調査であり、調査会社のネットモニターから、2015年国勢調査をもとに男女別に5歳刻みの割り当て抽出を行った(男性544ケース、女性573ケース)。分析に用いる主要な変数は介護態勢における希望(「自分の親や配偶者の親に介護の必要が出てきた場合、どのような形で親を介護したいと思いますか」)、実際に可能だと思われる介護態勢(「実際にはどのような形で親を介護することができそうだと思いますか」)、自分の関わりにおける希望と実現可能性(「実際にはどの程度関わりたいと思いますか/関わることができそうだと思いますか」)である。
3.結果
暫定的な分析結果としては、計16の質問項目の回答傾向から、6つの類型が見いだされた。例えば、「外部サービス頼り」の類型では配偶者の親で9割前後、実親で6割前後であり、実現可能性とのギャップは少なかった。一方で、「主に家族での介護」を希望する割合が高い類型では、希望と実現可能性のギャップは大きい。男女ともにどの類型においても介護態勢と自身の関与における希望と実現可能性の双方において実親寄りの傾向であった。
付記:本報告で使用するデータは、JSPS科研費若手研究(B)(課題番号:25780321)の助成を受けたものである。
文献
Esping-Andersen, Gøsta. 1990. The three worlds of welfare capitalism :Polity Press.(岡沢憲芙・宮本太郎監訳,2001,『福祉資本主義の三つの世界──比較福祉国家の理論と動態』ミネルヴァ書房)
藤崎宏子, 1998, 『高齢者・家族・社会的ネットワーク』培風館.
落合惠美子,2017, 「つまずきの石としての1980年代 :「半圧縮近代」日本の困難」『失われた20年と日本研究のこれから・失われた20年と日本社会の変容』171-182.
清水新二,2001,「私事化のパラドクス:「家族の個人化」「家族の個別化」「脱私事化」論議」, 家族社会学研究 13(1), 97-104.