水嶋陽子「日本農村高齢者の住まいと世代間間関係」

第6報告「日本農村高齢者の住まいと世代間間関係―居住を伴わない継承の可能性―」
                              水嶋陽子(常磐大学)

 問題の所在 同居率低下とともに、老年期の世代間関係の在り方も変容していると考えられる。そのため農村部においては、限界集落論の流れを汲み、生活支援の必要性や家継承の困難が語られがちである。しかし、現在農村部に頻出している、同居を伴わない世代間関係、なかでも高齢者と跡継ぎと期待される子どもとの関係の具体像は、必ずしも明らかではない。
 先行研究 農村における直系制家族の世代的継承は様々な条件が重なり時間がかかるプロセスとなっており、近年は、あとつぎ選択は伝統的規範以上に状況的判断によってきていると指摘される。また、家の継承として意識される側面は、親世代と子世代で一様ではなく、継承財(家名、農地、家屋と宅地、家の付き合い、先祖祭祀)が分化して、重要度に差が生じている。さらに、住居の継承を欠いた世代間関係の広がりや、居住規則より家業継続が優先される事例など、直系制家族の部分的修正も指摘されている。
そこで本稿は、高齢者の語りをデータに、家の継承という観点から世代間関係を具体的に把握したい。
 調査概要 調査地は茨城県北部に位置する中山間地の旧Sムラの4集落。高齢者22名(男性7名、女性15名)に聞き取り調査を実施。年齢は70代から90代で、いずれも現在は一人暮らしであるが、その多くが同一市内に住む子供がいる。家としては、初代(「創設世帯」)が3人、二代目(「新宅世帯」)が5人、3代目以上(「継承世帯」)が14人であった。
  調査結果 ①跡取り認定の状況
対象者は一名を除き、長男を跡取りとみなしていたが、そうした伝統的規範による跡取り認識は、結婚、転職など子どもの行動により変更を迫られ、「跡取りがいない」ないし「跡取り未定」となる場合がある。調査時点では、「跡取りがいる」は9名、「跡取りがいない」は3名、「判らない・未定」は10名であった。
②跡取りの担う役割
跡取りとみなされる子どもは、旧村内などに近居していたり、帰郷予定があったりして、すでに家としての役目を果たしている場合である。そうした子どもは、冠婚葬祭のつきあいや、川掃除、祭りの宿など村の役割への代理参加など、村社会における家としての役割を担うことが期待されている。そうした子供がいることで、高齢者は対外的に家の継承を保障され、その土地での生活を継続することが容易になる。 
 議論にむけて 農村高齢者には、ムラというより大きな組織との制度上の関係から、跡取りとなる子供との世代間関係の維持が状況適合的となる場面があると考えられる。村社会からの引退(村隠居)を可能にする跡取り役割は、家業や家産の継承に比べ、その土地に居住する必然性は低い。そのような世代間関係を家の継承としてどのように評価できるのか、最後に考えたい。

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