鄭楊「中国都市部の子育て支援と世代間関係」

第7報告「中国都市部の子育て支援と世代間関係」
                        鄭楊(中国哈爾浜師範大学)

 欧米では、「隔代扶養(祖父母による孫の養育)」は、機能不全の家族によく見られるが、現代中国では、祖父母がもっとも有力な育児支援者であり、「隔代扶養」は一般的な育児形態となっている。1991年から2004年までの中国9省の家庭栄養のデータによると、半数近くの祖父母は0-6歳の孫と同居しており(三世代家族)、祖母の育児時間と母親の育児時間とほぼ同じである。
 なぜ祖父母は次世代の養育責任を担い、孫の世話を熱心にしているのかについての先行研究では、伝統的な親密さの継続と、個人化による資産と権力の争いといった異なる結論が見られる。具体的に言えば、若者の間に子が親に「孝」をするべきだという観念は、依然として強く(劉汶蓉,2012)、「隔代扶養」は中国福祉制度の未整備により、相互の依存性が高くて、親密さが保たれている(楊菊華、李路路,2009;徐勤,2011)。その一方、中国社会の急速な発展により、家族関係が「道具化」され、特に子世代は経済的、日常生活などを親に依存することで、親世代は世代間関係の「被害者」だと論じられている(陈柏峰,2009;阎云翔,2009;郭于华,2001)。また、近代化、個人化により、世代間関係においては、資産と権力をめぐる「争い」が見られる(沈奕斐,2009;張愛華、2015)。
 子育て支援に焦点をあてて、世代間関係をみると、その変化が顕著である。親子関係は依然として中国家族関係の核心的な軸であるが、市場化経済、一人っ子政策などにより、家族の資源の流れ方向は変わり、上(親)から下(子)へと変化している(劉汶蓉,2016;肖索未,2014)。とくに子育て期に当たる世代関係においては、経済的な支援だけでなく、祖父母は、子、孫の生活を中心に、自分の生活を設計し、子育て支援のために、祖父母が別居を選択するケースも珍しくない。また、都市部の子育て期の支援では、母方の祖父母による日常的な育児支援と、父方祖父母による経済的な育児支援という特徴が見られる。
 子育て支援における親世代の「義務」と子世代の「権利」というアンバランスの世代間関係は、個人化によるのか、それとも福祉制度の未整備によるのかといった議論がなされているが、世代間に「被害者」、「恩恵者」などと思いながら、支援を行い、もしくは支援を受けているのか、その実際の様子は充分に明らかにされていない。
 そこで、本研究は以下の問題点を明らかにしたい。まず、個人化または、福祉制度の未整備が、都市部の親子間関係に変化をもたらしたならば、「個人化」と言いながら「科学的な育児」を求めている子世代と、「老後、子どもに迷惑をかけたくない」、「孫の世話が今の幸せ」と言い育児支援を提供している親世代の間に、どのような世代間関係の変容を遂げているのか。さらに、育児支援を受けている子世代と親世代の両方を調査対象にして、実際の育児支援型を明らかにすると同時、育児支援が子世代と親世代にとってどのような意味合いをもっているのかも分析する。
 分析結果として以下の3点が明らかになった。(1)親世代も子世代も都市で生まれ育ったの家族では、親世代、子世代両方とも自分の生活スタイルを保って育児支援を提供したり受けたりしている。(2)親世代が農村部で子世代が都市で生まれ育ったの家族では、3種類のなかで、親世代はもっとも伝統的な親子関係、従順的な関係を求めているように伺えるが、子世代は個人的な生活を追求している。(3)親世代も子世代も農村で生まれ育ちだが現在都市部で生活している家族では、3種類のなかで、もっとも平和的な世代間関係を示している。3種類の家族は、次世代の教育、次世代の発展のために、経済的、日常的な援助を惜しまないことはほぼ一致しているが、欧米の個人化より「家族一体化」することで、それぞれの個人化を追求している。3種類の家族は異なる育児援助の仕方、異なる世代間関係を示している。

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