2023年度 秋季研究大会自由報告要旨

石黒史郎(学習院女子大学他・非常勤講師)

「家」と「家族」の用語法上の多層性とズレ−−戦前期の白川村研究を事例として

  日本の家族社会学において近代家族論が提唱されて以降、「家族」の近代化について多くの知見が蓄積されてきた。そうした知見が精緻化されていく中で近年、日本における近代化の初発段階から戦前期にかけて、「家」が重要な単位となっていたことが意識されるようになり、「家」が近代化とどのように関わっていたのかということが問題となりつつある。
 一例をあげれば、日本における国民についての初めての統一された近代的な記録は明治 5 年戸籍であるが、これは当時の実態としての(「家族」ではなく)「家」を単位に編成されたものであると言われている。
 しかしながら、戦前期の「家」および「家族」という言葉の使われかたに多層性があり、たとえば、当時の村落秩序の中での「家」と、戸籍・法制度における「家」は必ずしも同じものではない。また、学者や社会運動家などによる「家」や「家族」の用語法も、これらと必ずしも一致するものではない。
 ただし、それぞれの言葉は重層性を伴いつつ、場合によっては重なり合うこともあるので、まずはそれらの関係を解きほぐす必要がある。
 この点から、本報告が注目するのは明治期から昭和初期の白川村を対象に行われた研究である。特にその中でも、民俗学者の江馬三枝子、法学者の福島正夫、社会学者の小山隆の研究をとりあげて、それぞれの互いの研究への言及を検討する。この作業を経ることによって、村落秩序における「家」、戸籍上の「家」、世帯概念によって捉えられる「家」、およびそれらと「家族」の用語法の関係を考察する。その上で、それらのズレや重なり合いを論じる予定である。

李姝(中央大学大学院・博士後期課程)

現代中国における地方都市に在住する高齢者と成人子の世代間関係――老親扶養をめぐる夫婦間の役割調整のプロセスに着目して
 従来の中国における老親扶養に関する社会学研究では、老親扶養関係の変容が焦点となっており、費(1983)のいう「平等互恵」、つまり対等で均衡な交換関係が大きく揺らいていること(賀 2009)が示唆されてきた。都市部の高齢者は年金や貯金があり、子どもからの経済的援助よりは情緒的援助を求める傾向があり(楊、2006・2008)、「子世代から親世代への扶養義務」よりも「親世代から子世代への責任」が強調する傾向にある(楊・賀、2004)。それに対して、老親世代の経済的自立さえ困難な地方都市においては、誰が老親扶養を担っているのかについてはまだ十分な研究が蓄積されていない。つまり、従来の先行研究では、中国における都市部の近代化による変化や農村部の経済発展の遅れなど、都市・農村という「二元的社会構造」を前提としている中国社会における老親扶養に関する二つの現実を明らかにしてきたが、その「境界領域」である「地方都市」に関する現実は明らかにされてない。
 本研究は、現代中国地方都市に在住する、きょうだいを持ち、かつ経済的に安定している中年夫婦世代の語りに基づき、そうした中年夫婦がいかに老親扶養を担っているのか、老親扶養をめぐる夫婦間の役割調整のプロセスに着目し、中年夫婦たちが自らの状況をいかに意味づけ、解釈しているのかを明らかにすることを目的とする。調査地域は中国の中部内陸地域の地方都市である河南省Z市を選定している。筆者は、2017年8月から2021年12月までの期間、中国河南省Z市在住の中年夫婦世代を主な対象者として、その家族(配偶者、親や子どもなど)への半構造化インタビュー調査を行った。その結果、以下のような知見が得られた。第一に、中年世代は、定位家族より生殖家族を優先していることである。第二に、中年世代は、義親への老親扶養より実親への老親扶養を優先していることである。第三に、老親扶養をめぐる「ジェンダー分業体制」が存在していることである。